天使に関する記録
ヤミに堕ちし者の名は、風に散る灰のごとく失われる。その歩みを知る者はなく、その証を記すものもまた在らず。ただ、かつて在ったという痕のみが、沈黙のうちに地を覆う。
されど空白は空白にあらず。忘却の底に沈みしものは、かたちを変え、似て非なるものとして再び地に現れる。それを人は天使と呼ぶ。
彼らはひとつの核を抱く。それは脈動せず、熱を持たず、ただ静かに在る。そこより滲み出づる黒きものが、肢を成し、貌を結び、かつて人であったかのような外形を織り上げる。
その肌は冷え、触れれば生の温もりを返さず、その口は形を取るとも、言葉を宿すことはない。音は生まれず、ただ模された沈黙のみがそこにある。
彼らは繰り返す。崩し、満たし、重ね、また象る。似姿は積み重なり、やがて量となり、量は力へと偏りゆく。
満ちるとき、その貌はもはや一つに留まらず、地の理を圧し曲げ、かたちという檻すら押し広げる。そのとき人は、天使を天使と呼び続けること能わず。
なれど、すべての堕落がその核に至るにあらず。ヤミは等しく口を開くが、応えるものは選ばれる。見えざる約定に触れし者のみが、その器を与えられる。
ゆえに問うことなかれ。なぜあの者が戻り、あの者が還らぬのかを。契りは語られず、徴は刻まれず、ただ結果のみが地上に残される。
天使とは、救いの証にあらず。それは失われたものの影であり、忘却が生んだ静謐なる模倣にすぎぬ。